富山地方裁判所 平成9年(行ウ)4号 判決
原告
野崎桂子(X1)
同
松岡郁子(X2)
同
鍛冶邦彦(X3)
同
松岡眞(X4)
被告
富山県知事 中沖豊(Y)
右訴訟代理人弁護士
細川俊彦
右指定代理人
鹿熊利秋
同
山本利夫
同
一島博
同
岡崎光信
事実及び理由
第三 当裁判所の判断
一 争点1(本訴の住民訴訟としての適法性)について
住民訴訟の対象とされる事項は地方自治法二四二条一項に列挙された違法な公金の支出等の財務会計上の行為であり、これに該当しない非財務会計上の行為の違法性は住民訴訟において争うことができないと解される。
これを本件についてみると、本訴は本件工事に係る工事費用等の支出の差止めを求めるものであり、財務会計上の行為を対象とするものであるから適法であることは明らかであって、本件都市計画の変更及び本件都市計画事業の事業計画の変更の手続が都市計画法に違反しているか否かという非財務会計上の行為の適法性が争点となっているからといって、本訴が非財務会計上の行為を対象とするものであるとして不適法となるものではない。
よって、この点に関する被告の主張は採用できない。
なお、富山県監査委員は原告らの監査請求を却下しているが、原告らの監査請求は本訴が適法であるのと同様の理由により客観的には適法であって、右監査委員の却下は違法であるから、本訴は監査請求の前置の要件を満たしていることになる。
二 争点3(違法性の承継の有無)について
1 そもそも住民訴訟の対象とされる財務会計上の行為の違法事由としてもその原因ないし前提となった非財務会計上の行為の違法性を主張できるかについては、これをすべての場合に肯定すると、ほとんどの行政行為等には経費が必要であって、支出や債務の負担等の財務会計上の行為を伴うから、これらの財務会計上の行為をとらえ、支出や債務の負担等の原因ないし前提となった行政行為等が違法であるからその支出や債務の負担等も違法であるとして住民訴訟を提起することにより、地方自治法で定められた形態の財務会計上の行為についてのみその違法を是正することを目的とする住民訴訟において、実質的に非財務会計上の行為の違法性を争うことができることになる。
そうすると、結局ほとんどの行政行為等が住民訴訟の対象となることとなって、より厳しい要件の下でしか認められない事務監査の請求を住民訴訟によってすることができることにもなり、住民が納税者の立場から、普通地方公共団体がその機関の違法な財務会計上の行為によって損害を被ることを防止し、あるいは、普通地方公共団体の被った損害を回復する手段として住民訴訟の制度を設け、これによって普通地方公共団体が適正な財務会計処理を行うことを保障することとした地方自治法の趣旨に反することになる。
そして、右の地方自治法の趣旨からすると、財務会計上の行為の違法事由として、その原因ないし前提となった非財務会計上の行為の違法性を主張できるのは、当該財務会計上の行為の原因ないし前提となった非財務会計上の行為が当該財務会計上の行為を適法に行うための要件となっている場合など前者が後者の直接の原因ということができるような密接かつ一体的な関係にある場合であることを要すると解するのが相当である。
したがって、本件都市計画の変更及び本件都市計画事業の事業計画の変更の手続が都市計画法に違反し違法であるとした場合、右手続の違法性が本件工事に係る工事費用等の支出に承継されるか否かは、右手続が本件工事に係る工事費用等の支出を適法に行うための要件となっている場合など右手続が本件工事に係る工事費用等の支出の直接の原因ということができるような密接かつ一体的な関係にあるか否かによることになる。
2 そこで、都市計画ないしその変更及び都市計画事業の事業計画ないしその変更の手続と、都市計画施設に係る工事請負契約の締結ないし工事費用等の支出との関係について検討する。
都市計画とは、「都市の健全な発展と秩序ある整備を図るための土地利用、都市施設の整備及び市街地開発事業に関する計画」(都市計画法四条一項、以下括弧内においては、都市計画法のことを「法」と呼称する。)をいい、「農林漁業との健全な調和を図りつつ、健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保すべきこと並びにこのためには適正な制限のもとに土地の合理的な利用が図られるべきこと」(法二条)を基本理念として定められるものであり(例えば、下水道等の都市施設は、法一三条一項六号により「土地利用、交通等の現状及び将来の見通しを勘案して、適切な規模で必要な位置に配置することにより、円滑な都市活動を確保し、良好な都市環境を保持する」という都市計画基準に適合するよう定められる。)、将来における都市施設の整備等に関する基本的事項につき一般的、抽象的に定めた都市の基本計画にとどまるものである。
また、都市計画事業とは、「都市計画施設の整備に関する事業及び市街地開発事業」(法四条一五項)をいうところ、都市計画において施行区域が定められた市街地開発事業はすべて都市計画事業として施行する必要がある(土地区画整理法三条の五、都市再開発法六条等)のに対して、都市計画施設の設置は、都市計画事業として施行することにより簡便な用地取得の制度等が認められる(法六七条、六九条ないし七三条)が、既に事業に必要な土地を取得しているため新たに土地を収用する必要のないもの等については必ずしも都市計画事業として施行する必要はないと解される。
さらに、都市計画事業の事業計画においては、事業地、設計の概要、事業施行期間が定められる(法六〇条二項)ところ、都市計画ないしその変更が認可されると、事業地内における都市計画事業の施行の障害となるおそれがある建築物の建築等は都道府県知事の許可を要することになる(法六五条一項)など、事業地内の土地所有者の権利義務に対して具体的な変動がもたらされるが、反面において、都市計画施設の設置に係る工事請負契約の締結等が義務づけられるなどの法的効果は生じない。
そして、都市計画法二一条は都市計画の変更について、同法六三条は事業計画の変更について規定しているが、前記都市計画及び事業計画の性質に変更を加えるものではない。
以上からすると、都市計画施設に係る工事請負契約の締結は、必ずしも都市計画法に根拠を有することが要求されるわけではないし、都市計画ないしその変更及び都市計画事業の事業計画ないしその変更の手続が都市計画施設に係る工事費用等の支出を適法に行うための要件となっているわけではないから、都市計画に係る工事請負契約の締結ないし工事費用等の支出(財務会計上の行為)と都市計画ないしその変更及び都市計画事業ないしその変更の手続(非財務会計上の行為)との間に密接かつ一体的な関係があるとは認められないというべきである。
3 したがって、仮に本件都市計画の変更及び本件都市計画事業の事業計画の変更の手続が都市計画法に違反し違法であるとしても、そのことにより本件工事に係る請負契約の締結及び本件工事に係る工事費用等の支出が違法となるものではないというべきである。
よって、この点に関する原告らの主張はいずれも採用できない。
第四 結論
以上によれば、原告らの本訴請求はその余の点(争点2)について判断するまでもなくいずれも理由がないから棄却することとする。
(裁判長裁判官 德永幸藏 裁判官 源孝治 村上泰彦)